【柳生一族、そして宗矩】その18.5B:「趣味に生きた男」宗矩

 さて、宗矩の特異性についての話で、
「宗矩は剣を救うために、剣を意味を変えたのだ」と書いたわけですが、
そもそもなんでそんなことしたのよ、という動機の部分について、
もう少し細かめに突っ込んでみようかと。


 前は、この動機について「宗矩も剣士だから」で済ませましたが、
当方思うに、そんな高踏なもんじゃなくて、もっとストレートに、
「剣術とか!好きだから!!」だったんじゃなかろうかと。


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      柳生宗矩(イメージ図)


 そもそも子供の頃からやってることとはいえ、
もし、単に剣術以外で身の立てようが無かったから、ということであれば、
惣目付か大名になった時点で剣術指南を辞め、政治一本槍に向かうことも
できたのではないか、と思うので砂。
余人ならばともかく、宗矩ならば、それも不可能ではなかった筈です。
しかし、結局、最後まで続けたのは剣術指南役だったわけですよ。
つまり、ここで「何故、そこまで剣にこだわったのか」という疑問が出ると。


 実際、宗矩に対してよく言われる批判として
「宗矩は出世のために剣を使っている」、
即ち、「出世のために汚い(=剣を汚す)こともやっている」というのがあります。
(まあ、"剣を汚す"ってのも随分と主観的な話であるなあとは思いますが)
ですが、そう言われる割に、史料を見る限り、宗矩の出世欲は
今ひとつ強く感じられないので砂。
逆に、真実かどうか不明瞭な点があるとはいえ、
宗矩が自らの加増を断ったり、自領を減らすような言動をした話は3つあります。


 ・大和高取五万石の内示を断り、友人の植村家次へ譲った
 ・次男・友矩の大名への内示を断った
  (これは気づいてなかった、という説もありますが)
 ・死ぬ時、所領、及び今まで下賜されたものを全て返上した


 もし、出世欲の塊のような人間なのであれば、
如何に真否が不明とは言え、このような逸話が出るのもおかしな話ですし喃。
しかも複数。


 また、「出世のために剣を使っている」の論拠として、
「将軍に対しては手加減して教授し、機嫌を取っている」というのがあります。
まあ、これについては、家康の「匹夫の剣」発言の件で
既に話が終わってるような気もするのですが、
これに絡んで、少し面白い話があるので砂。


 元和八年(1622)5月、家光が将軍になる前年、
家光(&頼宣)は宗矩に対し、柳生新陰流の伝書を渡せ、と言い出します。
まあ、剣術(というか柳生新陰流)にハマった二人が、
それこそ「zipでくれ」ばりに「伝書全部よこせ」と言ってきたわけで砂。


 で、宗矩はひとまず伝書を書き上げ、これを提出しました。
ここまでだけであれば、「奥義に達してない人間に伝書を渡すなんて、
やはり出世のために剣を使ったって言われても仕方ないんじゃないの?」と
言われても仕方ないのかもしれませんが、この伝書、
ラストに仕掛けがあったので砂。


 「心中おさめたる所、又これよりこれなしと申し所をたもつものに、
  人を見て印可是也、上手なりとも、たもたぬものに、
  ゆるす事これなきを当流の第一とす、印可則極意也」


 要するに、「上意であるので、伝書は渡しましたけど、
奥義に達するだけの人間でなければ、印可はあげないのでそのつもりで」と言うことで砂。
つまり、こんな塩梅。
                                              /|
                                          ∧ ∧/ レ
                           /⌒〜Y⌒"""ヘ   ヘ∨ ∨
                         /⌒/   へ    \|\
            /           /  /   /( ∧  ) ヘ ヘ
           く           // ( /| | V )ノ( ( (  ヘ\   印  て
    ┘/^|    \         (  | |ヘ| レ   _ヘ|ヘ ) _ヘ    可  め
    /|   .|              |  )) )/⌒""〜⌒""   iii\    は  |
     .|  α  _          ヘ レレ  "⌒""ヘ〜⌒"  ||||>       ら
          _∠_       イ |  |  /⌒ソi   |/⌒ヘ  <    や  に
     _     (_        ) ヘ  | ‖ () ||  || () ||  _\   ん  は
     /               (  ) ヘ |i,ヘゝ=彳  入ゝ=彳,i|\    ね
    /ー               ( /  """/   ー""""   >   |
      _)   |          ヘ(||ii    ii|||iiii_/iii)ノヘ|||iiiii<   |||||
          |          ( ヘ|||||iiii∠;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;    フ    ""'
    /////   ヘ_/       ) ヘ|||""ヘ===二二二===7フ / ム/∧ ∧ ∧
    /////              (  | ii  | |LL|_|_LLL// |    )( ∨| ∨)
   ・・・・・                ) )| || | |||||||||||||||||||||||| | |   ( ヘ | ヘ ) (
          ___        | | /| .| |||/⌒/⌒ヘ | | |  iiiiヘ ( | ( | /
            /         / (|.| | |       | | |  iii  ) | ヘ )( )
            (          ( /..|  | |_____/ | |  iii  ( )( // /
            \         ) )..|  |ヘL|_|_L/ / /  ,,,,--(/Vヘ)(/
                       / ( .|ヘ \_ヘ |_/ / /
                       イヘ /彡  ∪/し   /
                        ヘレ\レiiii||||iii(iii||/
                                  /
                            柳生宗矩(イメージ図)


 こんなんだったら、もったいつけて渡さない方がまだマシなんじゃないの?
と言わんばかりの注意書きというか、皮肉で砂。
「あんたらは全然修行不足でダメ」って言ってるようなもんですし。
世に言われるような意味で「剣を出世に使っている」のであれば、
少なくともこの一文を書くのはあり得なかろうと。


 そうなると、大して出世欲が強くないのであれば、
何で宗矩は出世していったの?という疑問が出るわけです。
当方が、その理由を「宗矩は剣を守るために出世したのだ」と推測したのは、
これだと、宗矩が最後まで続けた役職が剣術指南役であったことに
合致するからなのですな。


 要するに、宗矩は自分の好きなこと、
即ち、剣術をやるために出世しただけなんじゃないかと。
つまり、「出世のために剣術を使った」のではなく
「剣術のために出世した」のであり、
あくまで「剣>出世」だったのだろうと。


 だからこそ、(剣術を守るために)必要な出世さえ出来れば十分であり、
むしろ、目的達成のためには、必要以上の出世は危険である、とすら
考えていた節が見えます。
その要因は、まだ秀忠が将軍だった時代の、宇都宮十五万石・本多正純の一件
ではないかと当方は考えております。

 それは、重臣本多正純(家康の腹心であった本多正信の息子)が、
元和八年(1622)、秀忠暗殺を試みたという「宇都宮吊天井事件」によって
失脚した一件です。


 ここで注意したいのは、この失脚、まがりなりにも将軍を暗殺しようとした、
つまり謀反であるにも関わらず、当初の罰は出羽の内由利郡五万五千石への転封のみ、
その後、罰が厳しくなっても、配流程度で終わっている、ということでアリマス。
先の坂崎の件と比較しても、この処罰の軽さは異様です。
(参考:宇都宮十五万石への加増前の本多家は下野小山藩五万三千石)


 そもそも、吊天井で暗殺、という仕掛け自体、不自然なこともあって、
この事件は、親子共々戦場働きの無い上、彼自身が若輩であるところに、
大幅な加増(下総古河三万石から段階を経て宇都宮十五万石に)を
受けていた正純への嫉妬による幕府内の不満の高まりを抑える為の
仕掛けだったのでは、と言われてるので砂。


 この結果を見て、同じく、戦場での直接の働きが少なく、
徳川においても比較的新参である柳生家は、出世のし過ぎに注意する必要がある、と
宗矩が考えても不思議ではなく、だからこそ、自らの出世を、
自身の目的に必要なもの以上にならないよう、心掛けていたのではないか、
と思われるので砂。


 これは裏返せば、剣を守るための出世、即ち、
将軍や各地の大名と付き合いが出来る環境には上り詰めておく必要があったわけで、
それゆえに受けた惣目付であり、大名就任だったのでは、とも言える訳ですよ。


 そして、正純とは別に、もう一人、宗矩が気にかけていたのではないか、
と推測できる人物に、千利休がいます。
茶の湯」を「道(数寄道)」に仕立て上げた一人であり、
時の権力者の裏づけを得て、己の価値観を確立し、世に広げたという点では、
宗矩が目指す立ち位置に近いものがあったのではと思われます。
(つか、宗矩が修行に出向いたことがあるらしい大徳寺は、利休と縁があるため、
 その絡みでより細かな話を聞くこともあったかもしれませんな)


 しかし、利休の最後が、秀吉の勘気に触れての切腹であったことを思えば、
少なくとも、同じ轍を踏むわけにはいかない、と考えるのも十分あり得ただろうと。
ましてや、相手は"余は生まれながらの将軍である"発言の難物、家光ですし。
その意味では、宗矩の採った道は、決して簡単なものではなく、
むしろ、細い吊橋を渡るが如き心境だったのでは、と。


 ちなみにもうひとつ、出世とは別枠での権勢欲の話として
柳生新陰流の天下一を守るために宗矩が他流派潰しを」というのもありますが、
これも怪しいものがありま砂。
まず、それならもうひとつの御流儀・小野一刀流を放っておくのは不自然です。
家光時代の宗矩ならば、小野を追放することなど然程の手間でもなかったでしょう。
(それでなくとも親父似で問題の多い忠常でしたから、尚更)
それに、宗矩がそういうこだわりを持つような人間であれば、
そもそも新陰流の正統を利厳に継がせる訳がないと思われますし。


 あと、話変わって「活人剣・治国平天下の剣」の概念について、
太平の世における剣の有為性を訴える為に作り出した理屈であり、とんちである、と
書いたのは、この概念は極論すれば、


 「剣術をやれば、君もみるみる背が高くなり、腹筋も割れ、視力も回復し、
  ダイエットも成功、女の子にもモテモテで、たちまち大金持ちになって云々」


 とか言ってるのと同じだったからでアリマス。
要するに、プレゼンの企画書における売り文句だったんじゃないかと。
まあ、案外本気で、


 「いやだって剣術って超面白ェんですよ?もォ剣術最高!
  剣術ができれば政治だってできるし、自己の鍛練だってできるよ!
  だから武士は全員剣術やれ、すぐやれ、今やれ、みんなやれ。あーほれほれ」


 とか思ってた可能性もないとは言い切れませんが。
実際、「兵法家伝書」での剣術の扱いってそんな感じですし。


 だから、宗矩が出世したり、治国平天下の剣とか言ってみたりしたのは、
全部、自分の好きな「趣味(剣術)」のためであって、


 宗矩「だって、他の奴はこういうのやってくれないんだもの。
    俺がやらなきゃ、他、誰かやってくれるの?つか、できるの?」


 というのが、案外、宗矩の本音だったんじゃなかろうかと。
実際、こういう外と中の調整をする人がいないと、なにくれとツラいですし喃。
(誰もスケジュール管理しない開発みたく…)


 だから、前に「後に回す」と書いた件で、
沢庵に、えこひいきと賄賂の件で怒られてたのは、
その辺の絡みで、割と都合に合わせて動いてたのが理由なんじゃなかろうかと。
えらいさん相手に接待稽古して、手加減して褒めるくらいで気分よくやってくれて、
それで剣術に執心してくれるなら、そう悪いことでもあるまいよ、とか。
あと、「あ、お土産ですか。すいませんね。どもども」とかいう具合に、
くれるならもろとこ的なトコだったりとか。
もっと言えば、シグルイ的に言うところの「義理許し」「金許し」が
あった可能性もありま砂。
(つか、家光相手の印可はまずそれでしょうし)


 そういう意味では、文武両道の上に剣術を守るための熱意は凄いけど、
人格としては、格段に高潔(それこそ山岡宗矩みたく)でもないけど、
極端な暗黒野郎(それこそ隆慶宗矩並に)というわけでも勿論無い、
割と普通のおっさん(ただし趣味方面の能力は異能者ばり)の姿が
目に浮かぶようでアリマス。
…こう書いてると、なぜかあぶさんとかクッキングパパとかいう単語が
脳に浮かぶのはどういうことなのかと。

               -‐一……ー- 、
          , '´::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ
         /::::, -‐ァ:::, -―ァ:::::, -、::::::',
.      /イ/-、∠/-― 、`ヽ:i  }::::::|
.       /イ[≧y  T o ̄}  l」   |::::::|   (その太刀は)うまいぞっ!
         l  r′    ̄    、ー' :::::|
         r┴―――一'′     ヽ :::::|
         |                    \|
         |                }
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.           ヽ_____         '´ /
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          /  /⌒ヽ.        /

            柳生宗矩(イメージ図)


 まあ、もしかしたら後藤隊長なのかもしれませんが。
(個人的にはそっちの方が嬉しい)


       _.. -= ' ´  ̄ ` - .,_
     ,r'",,;;  ,;;;; ,,;;;  ,;;;;;;;;;;,,ヽ、
    / ;;;,  ,,   ,,,,,;;;;;;;;;;;;;; _ ;;;;;, ヽ
   ./;; r- ...,__  ,.. -y ヽ  ̄`i ;;;;;;,,ヽ,
  ,i ;;; l  / ノ ~l;'~       l ;;;;;;;;;; i
  i ;;;; i __, ...、 ! ,.- ., ___  .v ;;;;;;;; l
  !, ;; i'-,- '''ヾヽ  ~`r' ー=-~` i r- 、i   みんなでしあわせになろうよ…
   ヽ、i 'rーu-,i l   t'~"uー,.   l,lr' ll
    i, i ヽ、_,/,i   ヽ, -'"   リ j i
     i     l :::.      ..::::  ,/
      l    i_ ヽ     ..:::::: r'"-.,_
     i   ..,__ _ _、 ::::::::: i ヾ\~"ヽ
     ,._,-'"-' ~`二  '"  :::::: ,y ,i ヽ,
     ~_.ヽ    ''    ..::: ,-'" i   /i
  _,.-=' /, ヽ、      ,.-' ,'  ,r  ,y l

  • '"   / i l丶,-ヽ- ='"  ,'  /  ,'  i

         柳生宗矩(イメージ図)


 あるいは、ゴローさんでもうれしい。


───┐     ,,,,,,,,;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;,,,,,,.┌──
     .|    ,;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;三三ミ;;;;;;;;;;,|
し 俺 |   /;;;;;;;;;ミ-三三三ミ/ミミ;;|  焦
た は |  彡;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノ,,,,ミミ;;;;;.| る
い 剣 |  ヾ:{"`/~_/"~    ");;;;;;;;;|  ん
だ 術 |  ヾ{,---、 _ __, --  ./;;;;;;;;|  じ
け を |   }_____,,_ <-、,,,---、 `-;;;/,|  ゃ
な    .|   `l -ニエ) < 'ニエ>    / |  な
ん   |    .|  ' {        ヽニ|  い
だ    .|    .|   { -、      .l | |
     .|    |  、`ニ'_     /| .|
     .|    ヽ .ニニ `    /人|
───┘    ヽ       ///|__
           ヽ__,..-=~"~/: : : /: : :
     ___,.-ー//`,=、'~"  /: : : :/: : : :
   ,-':/: : : : :/; // 彡ヽ  /: : : : : /: : : : :
          柳生宗矩(イメージ図)


 あと、もしかしたらありそうなのは、島耕作なんですか喃…。
66で子供(六丸)作ってるし…。「剣豪・島耕作」?
島耕作ってAAないんで砂。意外)


 まあ、何故か最後はおっさんAA陳列状態となりましたが、
とりあえず結論としては、


  「剣術大好き!」な少年の瞳を持った大人の男


 というのが宗矩の実態だったんだよ!とか言ってみるのはどうでしょう鐘?
キラキラ瞳の宗矩とか割とレアな気もするのですけど。
(なお「なんで宗矩は剣術が好きなのか」については、
 「好きに理由なんていらないんじゃない?」というリリカルな回答をさせて頂く所存)


 尤も「でも、黒い方が面白くね?」って言われたら、
「そりゃそうだ」と力強く頷く所存ではありますが。