「柳生宗矩と十兵衛」


 以前書きました通り、
先日、五味先生の柳生ものをまとめ買いしたので、
柳生武芸帳」を皮切りに、順繰りに読んでいっているのです。
(現在、「剣法奥義」消化中)


 で、今回取り上げる作品は、
みんな大好き柳生但馬守こと宗矩くんと十兵衛が
縦横無尽に活躍するナイス作品でアリマス。
いや、斯様な作品を読めたのは僥倖でありましたよ?



 本作を一言で表現するとすれば、


 「やってくれた喃!山田!!」


 というところでしょうか。
実際にそうであったかどうかはともかく、
当方の脳内五味先生が憤怒の虎眼先生フェイスで
斯様な台詞を口にしている情景が
本作を読んだ際に幻視できたですよ。


 何ゆえに斯様な幻視が発生したのか、
それについては、縷々説明しなければならぬので、
しばし、お付き合い頂きたく思う所存。


 まず、発端となったのは、
「五味先生の日本創造」こと「柳生武芸帳」でございます。


 本作は、1956年〜1959年の間、連載されていた作品であり、
柳生を伝奇的にファックしたことにより、
宗矩がみるみる黒くなり、十兵衛が隠密るようになり、
柳生≒陰謀となったりしてアラ大変、という記念作でありました。


 さて、そんなこんなで、
その後も快調に柳生をファックした五味先生でありますが、
そんな五味先生の前に、ある一人の男が
新たなファックを引っさげて現れたのでアリマス。


 その人物をグラップラー刃牙風の
マッドアナウンスで解説致しますと、


 「最強の伝奇でございますか…。
  剣法、魔法、色々ございますなあ…。
  ただ、たったひとつだけと申されるのであれば…」


 「やはり、忍法でございます」


 そう!その男の名は、


 山田風太郎


 引っさげてきた作品こそは、


 柳生忍法帖


 そして


 魔界転生


 でアリマス。


 この両作品による山風先生のファックにより、
伝奇世界における柳生は新たなステージへと
進むことになったのでアリマス。
(なお、この後、石川賢により柳生は(というか十兵衛は)
 更なる暴虐の渦に巻き込まれることになるわけですが、
 それはまた別の物語である)


 さて、斯様な状況を見て、五味先生が如何に思ったかは
神ならぬ我が身では推測することしかできないわけですが、
おそらく、こう思ったんじゃないでしょうか。


 「やってくれた喃!山田!!」


 斯様なわけで、ここで話が最初に戻るわけでアリマス。
もう、なんというか、五味先生の大人気なさが
行間からにじみ出るような作品でありましたよ。


 内容について述べれば、
本作は宗矩と十兵衛を中心にした短編集な訳でありますが、
その中に、もうそのまんまなブツが存在しているわけでアリマス。
その超問題作のタイトルこそ、


 「堀主水と宗矩」


 でアリマス。


 「堀主水と言えば、元会津藩家老のあの堀主水か!」
 「一族を率いて脱藩した挙句、鉄砲まで見舞ったあの堀主水か!」
 「そうだ!その後、会津七本槍に摑まって
  非業の死を遂げたあの堀主水だ!」


 そんなY十Mな堀主水が、史実に沿って一族総出で脱藩するのが
本作のプロローグであるわけで、これを下敷きに
柳生忍法帖は展開するわけでございますが、
本作において、五味先生は別方向に柳生力(やぎゅう・ちから)を
働かせたのでアリマス。


 嗚呼、脳内五味先生がまた憤怒の表情に!


 「歴史の陰に柳生あり!」


 そして巻き起こる以下無惨。
本作において五味先生は「これが俺の柳生だ!」と
力強く主張するのみならず、明らかに山風先生に対し、
逆ファックをしかけておられます。
端的に言えば、俺「柳生忍法帖」、俺「魔界転生」です。
ええ、ニューロビンマスク、ニューモンゴルマン並に
ロクでもない単語で砂。


 ・事件の陰に宗矩あり


 ・堀主水一行を追う十兵衛


 ・そして十兵衛を迎え撃つは紀州七人衆!


 いやもう、読んでて唖然としましたよ。
そこまで悔しかったのですか五味先生、
とか言いたくなるくらいの有様で砂。
とりあえず、斯様なわけで、本作の魅力を十分に味わうには、
柳生忍法帖」「魔界転生」は前提条件だと
言っても過言ではございません。
そして、本作読了後のえも言えぬ感慨を
是非とも共感して頂きたく思う所存。


 さて、当方の目の前には、
まだ「柳生天狗党」「柳生十兵衛八番勝負」「柳生稚児帖」など
五味先生による柳生蹂躙の痕跡が残されているわけで、
この「当分食いものには困らないぜ」感はたまりませんな。
また今度、玄妙な気分に至った際には、
なにかしら記録を残していきたいものです喃。
ふむ。

柳生宗矩と十兵衛 (文春文庫 (335‐1))

柳生宗矩と十兵衛 (文春文庫 (335‐1))