荒山徹トークショー「朝鮮、柳生、そして…」


 行ってきました。
まず、なによりも最初に書いておきたいのは、


 「荒山先生はパーフェクトナチュラルパワー」


 ということでアリマス。
圧倒的過ぎます。


 「すごいよ!荒山先生は本当に実在したんだ!」


 とかパズーが言うくらい。


 この上記の結論に至った当方の感想や推論などは
後回しにして、まず、今回のトークショーの内容を
時系列順に箇条書きにしてみます。
トークショー中、ずっとメモってましたが、
もし、実際と違うようでしたらご指摘ください。すぐ訂正します。
(つか、書き止め切れなかった箇所とかもあったので、
 その辺は三田主水さん大作レポートをご覧頂ければ助かります)


【KENZAN!編集長の挨拶】


 「”KENZAN!”の企画立ち上げの時点で、
  既に荒山先生を入れることを決めていた」


 「荒山先生こそ”KENZAN!”の父」


 「今回のトークショーのタイトル
  「朝鮮、柳生、そして…」は3時間の思案の精髄。
  これ以上ない程、無駄を削ぎ落とした本気のタイトル」


 そして荒山先生と細谷氏のトーク開始。
(以降、荒山先生→荒、細谷氏→細)


【朝鮮について】


 細「何故、朝鮮?どうして興味を?」
 荒「新聞社勤務の時、在日の指紋捺印拒否事件の取材がきっかけで、
   韓国、及び朝鮮のことを調べているうちに、興味が湧いてきた。
   で、その流れで朝鮮の歴史を調べ始めた」
 細「何故歴史?」
 荒「国のことを知るにはまず歴史でしょう」


 そして、朝鮮への興味が高じ、
30を越えた身で会社を辞めて1年間の韓国留学へ。
なお、それまで韓国、及び朝鮮の知識はゼロ同然。
留学の目的も韓国語習得がメイン。


 細「何故小説を書こうと思ったのか?」
 荒「自分が知ったことを何かの形で残そうと思った時、
   思い浮かんだのが李舜臣で、彼のことを語るには、
   小説の形式が一番であろうと思ったので」
 細「それまで小説を書こうと思わなかった?」
 荒「考えもしなかった。それまで専ら読む側。
   子供の頃、文学全集を読み、そこからミステリへ」


 細「時代小説との出会いは?」
 荒「入り口は2つあって、ひとつは柴錬太郎。
   元々は上原きみこの漫画のあとがきで、
   ”柴錬小説を漫画で描きたい”と書いてあったのがきっかけ。
   もうひとつは篠田達明角田喜久雄歴史小説
 細「ふたつとも歴史伝奇ですね」
 荒「そうですね。
   だから私にとって歴史小説=歴史伝奇です」


 その後、しばらく歴史小説は読まなかったが、
社会人になってから、たまたま隆慶先生の「一夢庵風流記」を読んで、
面白かったので、また読み直し始めた。


 細「その割には作中での隆慶先生のあの扱いはナニ?
   …もしかして親愛の表れ?」
 荒「YES(はにかみながら)」


 山風先生や五味先生の作品を本格的に読み始めたのは、
書く側に回ってから。
山風作品は魔風海峡を書く前後から、参考のために読み始めた。
忍法破倭兵状で李舜臣が出てきて吃驚した。
(つまり、高麗秘帖は山風作品との関連性が薄い)
一応、その前から甲賀忍法帖などは読んでいたが、
当時の印象として気持ち悪かったので、読むのをやめていた。
ただ、魔界転生は面白かった。
あと、五味先生は超リスペクト。テラ尊敬。


 荒「同じ日本人のはずなのに、
   まるで全然違う人種のことを書いているような…。
   柳生武芸帖で、複数の主人公が、正義とは無関係に、
   己の利益のために相争う様は凄かった」


【柳生について】 


 まず、荒山先生の初の十兵衛との出会いは、
TVで山口崇が演じた十兵衛。これがマイ十兵衛。
なので千葉真一などの十兵衛を見ると「なんか違う」と感じる。
山風・五味両先生の十兵衛を知ったのはずっと後。


 柳生を書こうと思い至ったのは、
8年前、たまたまハイキングで柳生の里に来て、
そこで芳徳寺に行った際、柳生家の墓を見て、
「おお!柳生は実在したッ!」と感じたのが発端。


 細「一番好きな柳生は?やはり十兵衛?」
 荒「いえ、宗矩です。
   歴史に足跡を残してるのは宗矩ですから。
   やはり宗矩あっての十兵衛ですよ。
   あと、「柳生一族の陰謀」がありますが、
   あれで萬屋錦之介が演じた宗矩が最高。
   僕はあの映画が大好きで大好きで」


 細「柳生の人から苦情とか抗議とかは?」
 荒「最初はビクビクしてたけど、
   何も言われないので、多分スルーされてるなあと。
   なので、今は開き直ってます」


 荒「宗矩にはこれからもお世話になります」


 細「作品同士で世界が繋がってることがありますが、
   その辺、整合性なんかをどう気をつけてますか?」
 荒「いや、そんなの全然気にしてません。

   というか、百合剣の編集の人に、
   ”薔薇剣の時と十兵衛の隻眼が逆です”と言われて
   ”…どうしよう?”とか困りあったことがあった」


 荒「これからも整合性とか気にせず、ガンガン行きます。
   宗矩もどんどん使います。
   その子供たちもバシバシ使います。
   足りなくなったら双子とか女とかも出すよ!」


 細「いつも俺十兵衛が出てきますけど」
 荒「いつの時代も十兵衛は欲しいですから。
   ちなみに、卍兵衛は元々”まんべえ”って読みだったけど、
   ”弱そうだからやめれ”と編集に言われたので、
   ”ばんべえ”に変えた。
   ”十”兵衛の千倍強いから”まんべえ”だったんだけど」


 荒「オールタイム十兵衛ですよ。
   十兵衛を倒すのはやっぱ十兵衛でないと」


【その他について】


 細「作品中、ネタの仕込が多いですよね。
   冗談や遊びも多いですけど、ああいうのお好きなんですか?」
 荒「……?(なんのことか分からないな、的困惑フェイス)」
 細「ホラ、たとえば”戒重の歌”とか」
 荒「あれは一般教養でしょう。
   ああいうのなら柳生武芸帖でもやってるし、いいのでは?
   別に悪意とはかないですよ?」
 細「しかし、流石にやり過ぎでは…」
 荒「でも、どの辺で止めたらいいかとかわからないし。
   なら、やれるだけやってしまおうと。
   一応、これでも抑えてるんですけど」


 細「特撮ネタが作中にたくさん出てますけど、
   やはりお好きなんですか」
 荒「だからあれは一般教養ですよ?
   だから気がついたら入ってるのです。
   私は好きだし、多分皆も好きだろうと」


 細「魔風海峡の大武仏が出たところで、
   世界が一気に変わってしまいましたが、あれは?」
 荒「あれは金目像です。赤影の。
   というか、仏像が大きくなって何が悪い!
   仏像が動いて何が悪い!と」

 細「赤影の影響が強い、と」
 荒「そうですね。なんせカッコイイですし。
   檀奇七忍衆の初登場シーンで皆が仮面被ってるのも
   赤影の仮面の影響受けてますし」


 細「雨月抄の”ヤマタノオロチの大逆襲”は?」
 荒「あれは”八岐大蛇の逆襲”を借りた時、
   デッキが壊れてしまって、直してから見たのですが、
   それで返した時、延滞料取られて悔しかったので
   意地でも元を取ってやろうと」


 細「モスラは?」
 荒「あれは原作者の一人、堀田善衛先生との
   同郷のよしみで…こっそりと」
 細「どこがじゃ!>こっそりと」


 細「タカラヅカ、お好きでしょう?」
 荒「好きです。超イカす。
   ”捨て童子 松平忠輝”の舞台を
   見に行ったのがきっかけ。
   今では毎回初回に見に行ってる」
 細「どの辺りがお好きなのですか?」
 荒「女が男になって、更に女とロマンスを、
   というのがいい。
   女が男に、男が女に、更にそこからもう一度、
   おまけにそこで絡み合ったりとかするのが
   なんとも倒錯的で面白い」
 細「大戦争花郎団はやはり俺タカラヅカですか?」
 荒「その通りです。
   俺タカラヅカを作りたいなあと」
 細「”我が愛は海の彼方に”は
   まんまにタカラヅカ(我が愛は山の彼方に)ですね」
 荒「はい、そうです。
   これはもう好きなのでお許しいただきたい」


 細「十兵衛両断内の一作で、パロディキャラが4人出てきて、
   あれもウケました」
 荒「別に受け狙いとかではなく、
   ごく自然に出たのですけど…気がついたら出るのです。
   止めようかな、と思わなくもないのですが、
   ま、いいか、と」
 細「編集者は気づかないのですか?」
 荒「ほとんど(8割)気づかないですねー。
   何も言われませんよ」
 細「つまり、それって編集者側も
   ”だって荒山先生だから…”と
   思っているということでは…」
 荒「そんなもんでしょうか?」
 細「荒山先生は…荒山先生ですねえ」
 荒「そうですね」


 細「柳青隊の歌などのアイデアは、
   考え付くのにどれくらいかかりました?」
 荒「全然考えてません。
   柳生青年隊だから、略せば”りゅうせいたい”で、
   そう気づいたら、歌が出来てました。2番まで。

   まあ、元々柳生青年隊も、青葉青年隊が元ネタですから」


 荒「月代が嫌いだったので、時代劇は見てませんでした。
   小説を書くようになってから見始めました」


 細「大戦争の発想の発端は?
   というか、あの”神話捏造”というアイデアはどこから?」
 荒「元々、任那日本府や箕子朝鮮などの扱いにおける
   ”歴史の否定”というのはどうなのか、という問題意識が
   根っこにあって、そこから出た。
   なお、魔風海峡や魔岩伝説もここから出た話」


 細「作中でよく捏造についての話が出るが、
   何故そこにこだわるのか」
 荒「元々、神話などの伝統というのは捏造されるものなのです。
   その目的は、我が国は素晴らしいのだ、という
   国家意識/民族意識の高揚のためであり、
   それは短期的には利益になることもあるけど、
   長期的には害悪になる。いい例が2次大戦での日本の敗戦。
   それが21世紀になってまで引きずってどうする、
   ましてやそれが原因でイザコザが起こるなんてなあ、と。
   それをなんとかしたい、という意識があって、
   でも、それをストレートに言うと差し障りがあるので
   伝奇小説という形でやわらげて表現してみた」


 細「朝鮮以外で興味のある国は?」
 荒「本当は朝鮮以外に興味はないけど、
   あえて言えば、源流としての中国と、
   対比としてのベトナム
   今後の新作に出てくるかも」
 細「スペインは?というかジンゴイズ」
 荒「あれは冗談です。
   ジンゴイズム(好戦的愛国主義)から出ました」


【質問コーナー】


 事前に配布された質問記入ペーパーの中から、
適時質問をチョイスし、回答。


Q:どのような読者層を想定しているのか?


 荒「やはり若い人ですね。
   これからの日本を、東アジアを担う若者に」


Q:史実と小説の間には何がありますか?


 荒「ラブがある!」
 細「そのこころは?」
 荒「昔、アレクサンドル・デュマの「20年後」を読んで、
   そこで、「三銃士」のダルタニヤンが、
   清教徒革命という史実に出会ったのを読んだ時、
   史実と小説が結びつける”愛のとりこ”になったのです」


Q:一日のライフスタイルは?


 荒「朝起きて、お参りして、朝ごはん。
   PCの前で仕事して、昼ごはん。
   また仕事して、晩ごはん。
   資料調べて、12時くらいに寝ます」


 ※ トークショー終了後、
  ネットでの書評やレビューを見ておられるかどうか
  確認したところ、「ネットはやってない」とのこと。
  ただ、編集者がプリントアウトしたのを持ってくるそうな。


Q:柳生眞純(幸徳井友種)主役の話を書かれる予定は?


 荒「あります」


Q:「鳳凰の黙示録」は?


 荒「あれは日本編がアレ過ぎるので、
   書けるだけの気力を回復させてから書く。
   それまで待ってください」


Q:金髪くノ一絶頂作戦って誰が考えたの?


 荒「編集者の(実名)さんが”金髪くノ一作戦”を。
   私が”絶頂”を足したので、合作ですね」


Q:タイトルには凝る方ですか?


 荒「いや、まったく。
   直せって言われたら即直します。
   なお、柳生大戦争の時は、
   ”頭に柳生ってつけたらなんでもそれっぽくなるね”と
   奥さんと二人して色々出した案の中のひとつ」


Q:”勉強する”という言葉がよく出ますが、
  勉強は苦になりませんか?


 荒「苦しいですよ。
   でも、今よりもっと色々知って、
   更に朝鮮にまみれたいし、
   皆にも色々知ってほしいから。
   だから勉強するので、そう思っているから、
   つい口に出るのかも」


Q:自作を読んだ読者が、
  歴史を誤解するかもしれない、という危惧を
  感じられたことはありますか?


 荒「誤解しますかね?
   まあ、歴史を知るきっかけにでもなれば、と」


Q:黄算哲先生は?


 荒「あれは荒山徹を別読みして…」
 細「いや、それは皆知ってますよ。
   有名ですもの」
 荒「…有名なの?」
 細「有名です」
 荒「…すいません」


Q:ネタが多いですが、
  誰も気づいてないってネタはある?


 荒「…そんなのないですね。
   ネタなんて仕込んでませんから。
   というか、ネタってなに?(逆質問」
 細「…そんなこと言われても。
   本当にネタじゃないんですか?」
 荒「……(どうにも不可解そうな表情で)
   うーん…どうなんでしょうか…?」
 細「無意識から生まれるってことなんでしょうか」
 荒「んー、まあ、そうなんでしょうか」
 細「”神々の履歴書作戦”とかもネタじゃない?」
 荒「あれはたまたま別のところで見たのを
   思い出して、使ってみたのです。
   特にネタという意識はないですね」


Q:業界内での友人・知人は?


 荒「特にいません。
   対談でお会いした方と、
   奥さんの知り合いの方を家にお呼びしたくらい。
   (※名前がないのは当方のメモし損ねです)
   こういう風に人前に出て話すのも
   これが初めてなので、緊張してます」


Q:高麗秘帖発売のいきさつは?


 荒「会社を辞めて留学する時、仕事で縁のあった人から、
   ”もし、何か書けたら見せてね」と言われたので、
   高麗秘帖の原稿を送ったら、出た。
   その後、次も書きなさいって言われたので
   魔風海峡を書いた。
   で、その後は、方々から声をかけてもらって今に至る」


Q:今でも韓国には行かれますか?


 荒「年に2・3回は。
   仕事じゃなくて、好きだから。
   まあ、ついでに仕事もするけど」


Q:今後の方向性としては?


 荒「純粋に韓国・朝鮮史が書きたい。
   日韓のかかわりのあるところだけとかではなく。
   例えば、甲午農民戦争の指導者の話とか」
 細「そうなると、伝奇はやめるということですか?」
 荒「いや、別に書こうとして伝奇を書いてるわけじゃないから。
   普通に書いてたら伝奇になってるのです。
   言ってみれば…”伝奇ラブ”ですかね?」


【最後に】


 荒「柳生大作戦は、大戦争との直接の関係はありません。
   でも、やっぱり柳生まみれです」


 以上、なんとも密度の濃い1時間でありました。
ここの物事に対する当方の感想やツッコミなどは、
また別に書く所存。


 しかし、これだけは書いておきます。
ここまで読まれた方ならばご理解頂けると思いますが、


 本物の荒山先生は、
 我々が好き勝手想像してる荒山先生像よりも
 もっと凄かった


 ということでアリマス。


 書こうと思って伝奇を書いてるわけではなく、
ネタと思ってネタを書いてるわけでもなく、
(荒山先生の主観で)普通に歴史小説を書いたら、
それがネタ満載の伝奇と化しているという
まさにパーフェクトナチュラル歴史伝奇作家なのです。
おそるべし。


 まあ、もしかしたら徹頭徹尾キャラを
パーフェクトナチュラルパワーを装っていて、我々が去った後、


 荒「うう、疲れた…。
   もうあんな変な作家の振りなんてしたくないよ…」
 編「ヒャッハー!よくやったぜ荒山!
   参加者どもも大満足だったじゃねえか!」


 などという会話があった可能性も無きにしも非ずですが、
それはそれで「荒山先生=クラウザーさん」説
どれくらい違うよ、という話になるので、
「やっぱり荒山先生は凄い(YAS)」なのではと。


 なんにしても、大満足でありました。
参加者も上限40人にほぼ近い人数いましたし、
正直、ほっとしたり。
またいずれ、次の機会があればまた是非参加したいもので砂。